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セルフ塾は閉めましたが、そのままの名前でブログを続けます。独学,独習。教わるより,学ぶを重視。 セルフラーニングの方法,英語,数学などの情報を発信するつもりです。

自分が生きていてから炭素一二に七・六五MeVの励起状態が存在する
 「僕らは星のかけら」の中で一番おもしろかった部分を紹介します。



 だが、ホイルは、自分の理論に揺るぎない自信を持っていた。実験結果などというさまつな問題によって自分の理論に疑念を差しはさむことはなかった。七・六五MeVの状態は、絶対に存在するはずだった。このエネルギー状態が存在しなければ、宇宙には炭素が存在しないはずだというのが彼の論拠だった。あらゆる生物と同様に、人類も炭素を基盤とする有機体であるため、炭素が存在しなければ、人類も存在しない。ホイルが拠り所にしていたのは、自分が生きていて、恒星内部での炭素の形成の問題を考えていること自体が、炭素一二に七・六五MeVの励起状態が存在することの証拠だという、 かつて誰も用いたことのない、とんでもない論理だった。

 ついに、ホイルは、カリフォルニア工科大学の、ある実験核物理学者にこの話をすることにした。相談相手はウィリー・ファウラーだった。

ファウラーは、恒星の内部で炭素・窒素サイクルが水素をへリウムに変換する速度を測定し、それによって、少なくとも太陽では、もう一つのプロセスである陽子ー陽子連鎖が変換を行っていることを証明した人物である。

(中略)

 天文学者たちの考えに対するファウラーの理解力は並外れていた。だが、そのファウラーでさえ、一九五三年の春、フレッド・ホイルがケロッグ放射線研究所に現れたときに展開したとんでもない主張には度肝を抜かれた。

(中略)

 ファウラーの研究室に現れた天文学者は、原子核の厳密なエネルギー状態の予測という、かつて世界中のどんな核物理学者もやったことのないことをできると主張していた。しかも、驚いたことに、その予測は、核物理学的な考察に基づいていたわけではなく、我々人類は現に存在している、したがって、炭素一二は七・六五MeVという未知のエネルギー状態を保有しているはずだという無茶な論理に基づいていた。

 ホイルの説が間違っている可能性は、かなり高かった。だが、万一ホイルが正しいとしたら、それが恒星内部での元素素形成に対して持つ意味は計り知れなかった。このような荒唐無稽な主張をひっさげてケロッグ研究所を堂々と訪れた人物の勇気をひそかに賞賛していたことも確かだが、ファウラーがホイルを研究室から追い出さなかったのは、その万が一の可能性を考えたからだった。

それはファウラーの人生における最も賢明な選択だった。後にこの選択は、ファウラーをノーベル賞の受賞に導いた。彼は、このイギリス人の天文学者の言うことに耳を傾けた後、少人数の研究グループのメンバーを集めた。ファウラーの研究室で、常識的な実験物理学者たちに取り囲まれたホイルは、今、自分の科学者としての名声が損なわれるかどうかの瀬戸際にあることを痛いほど感じていた。ホイルは、炭素一二の七・六五MeVの励起状態が存在するという、とんでもない議論を再び展開し、これまでに行われた実験が、この状態を検出し損ねた可能性があるかどうかを物理学者たちに尋ねた。

 その後行われた専門分野の議論は、ホイルにはほとんど理解できなかった。だが、最終的には、ファウラーの同僚の間で見解が一致した。それは、炭素一二の励起状態が「偶数バリティ」と「ゼロスピン」というきわめて特殊な特性を持っているとすれば、これまでの実験がその状態を検出し損ねた可能性があるという見解だった。

 ホイルのアイデアは最初の重要な試験をパスし、彼の名声は損なわれずに済んだ。何より重要なのは、ケロッグ研究所の核物理学者たちが興味をかき立てられたことだっった。

 炭素一二の特定のエネルギー状態を検出し損ねた可能性があることがわかった以上,核物理学者たちは、実験装置を組み立てて、そのエネルギー状態の検出を試みるしかなかった。

 実験が始まってから一〇日の間、ホイルは気が気でなかった。毎日午後になると、ケロッグ研究所の地下室にもぐり込み、さまざまな電源ケーブルやトランスや、原子核を衝突させるための潜水作業具のような箱が所狭しと置かれた部屋で、ファウラーの同僚、ワード・ホエーリングのチームが忙しく立ち働く様子を見ていた。そして、毎日、地下室から外に出て、まぶしいカリフォルニアの太陽を浴びるたびに、これで今日も自分のアイデアが否定されずに済んだと、安堵の胸をなでおろした。実験が始まって一〇日日、ホエーリングがホイルを出迎えた。彼はホイルの手を握って上下に強く振り、祝福の言葉を浴びせた。実験が成功したのである。ホイルの予測が立証された。信じがたいことに、七・六五MeVに非常に近い炭素一二のエネルギー状態が本当に存在したのである。

 これはファウラーがそれまでケロッグ研究所で見た中で、最も驚異的な実験結果だった。彼は、まさかホイルのとんでもない予測が本当に立証されるとは思わなかった。それが、こんなに見事に立証されたのである。ファウラーの驚きに輪をかけていたのは、ホイルの予測の方法だった。ホイルは、特定の状態が存在しないとすれば、人間を始めとする炭素を基盤とする生物は存在できない、したがって、その状態は存在するはずだという、いわゆる人間原理的な議論を展開することによって、炭素一二の七・六五MeVのエネルギー状態を予測した。実験に先立って、人間原理的な議論に基づいて正しい予測を行った人物は、後にも先にもホイルしかいない。



 まったく滅茶苦茶な論理ですね。つまり,

 私は存在している。その私は有機物である。有機物は炭素をふくむ。炭素はこの世に存在している。炭素ができるためには七・六五MeVのエネルギー状態が存在する。

 まるで,「風が吹けば桶屋がもうかる」式の論理です。

 ぼくがファウラーだったら追い返していたでしょうね。

 前に
 創造的な人は自分が創造的だと思っている

 を書きました。

  「創造的な人は自分が創造的だと思っている」のですね。そのつづきで,「問題を解けると思う人が解ける」ということをよく生徒には話しています。
「解ける」と思った人が「解ける」

 ホイルはそのような人なのですね。それも並はずれて。

 自分の考えは,絶対に正しいはずだ,と思いこんでいる。その強い気持ちがなければ,道は開かれなかったでしょう。単に,風が吹けば,的な論理というよりもいろいろ考えてみて,それしかないという強い信念があったのでしょう。

 やはり,「できると思う人がしかできない」のです。
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